人手不足と失業者

※過去別ブログの再掲載 



☆人手不足と失業者


 「人手不足の問題」と「失業者の問題」、この二つの問題は、いかにも同時には発生しない問題のように思えます。人手不足のところに失業者を送り込めばあっという間にズバット解決!と考えちゃうんですな。実際、私も正月に実家に顔を出した際に、親父殿から同じような質問を受けました。というわけで、今日は珍しく社会問題についてです。(かなり長いんで、読む場合は覚悟完了してからお願いします)


 じつのところ、これらはまったく別の問題ではないかと思うのです。

 「人手不足」とは、「雇いたいのに人手がない」という場合だけではなく、「雇いたいのに雇えない事情がある」という場合もあり、実際に人手不足が問題となっている産業は後者のほうの問題を抱えていることが多いと感じます。


 たとえば実例を挙げると、



・医療

  ここの人手不足の原因は、「行為に資格が必要となる」点であろうと思います。失業した方が資格を持っていればそりゃあ問題ないですが、みんながみんなそうではありませんよね。失業中に資格取得する余裕があるかといわれると、それも難しいですよね。事務でも「医療事務」とかありますし。そういった資格なしで出来る仕事で人手が不足してれば・・・この業種に詳しくないのでよくわかんないですけど、資格のない人が医療行為を行うと、たしか犯罪行為ですよね。気軽にアウトソーシングするのは、経営側としてはちょっと怖い、かな?最近は医療ミスに対して世論がキビシイですし。もうすこし受入側の体制準備(専門職とそれ以外を明確に区分するやり方とか)が必要でしょうね。

 そのほかにもたぶん「賃金の問題」とか「ミスしたときの告訴」とか「不規則な勤務時間」とか「学歴・医局派閥」とかいっぱいあるんでしょうけど、ドロドロしたの苦手なんでこの辺で。



・農業

 ここのは、どーも政策側の問題ではないかと思いますがさておき。


 まず、農業の人手不足の原因は「高齢化」と「もうけの少なさ」にあると思います。高齢の方が農業をやって、補助金もらってやっとこさやっていける中で、人を雇う余裕があるとは思えません。かといって新規参入するにも資金が必要。資金を借りたとしても(失業者が土地を買うお金を借りれるかどうかも問題ですが)、農業は経験と運に左右されます。農業機械も肥料も種も苗もお金がいります。それでも台風で全滅する年もあります。逆にできすぎて値崩れすればつぶすしかありません。実際にもうけがでるまで何年かかるか・・・。失業者が単独で背負うにしては、高すぎるリスクでしょう。

 何年か前に農地に関する法律が改正され、企業でも農地取得が可能になりましたので、農業法人に新規雇用を期待するという道もありますが、そもそも専業農家でも補助金をもらってやっとトントンなのに、人件費の面でいろいろと負担の多い一般企業が新規参入して利益を上げるには大変な努力が必要でしょう。なのでこちらも期待出来そうにありません。

 そもそも、農業はかかる費用に比べて、商品の売値が安すぎます。日本の地価、人件費、肥料、農薬、農業用機械、種、苗、その他様々な資材は世界でもトップクラスに高いのですから、それらを用いて作った国産野菜は高級品のはずなのです。

 でも、ここ最近、米とか餃子とかのおかげで食の安全について皆さん注目していますから、単価が高くなっても安全の保証が購買意欲を高めてはくれそうです。ここに企業が目をつければ、新たな雇用が生まれるかもしれません。

 


・林業

 すみません。さんざん偉そうなこと書きましたが、今までのは全部前置きです。今回のブログの本題はここからです。


私が親父殿に言われたのは「失業者集めて山で伐採作業させるわけにいかないか?」でした。私は製材会社で働いていますから、同じ考えが頭をよぎったことはあります。本業ですのでちょっと本気モードで。


 さて、林業で人手不足の原因は、ずばり「儲からないから」です。人を雇う余裕がございません。まあそれ以外にも「きつい」「汚い」「危険」「夏暑く冬寒い」「虫にかまれる」とか挙げればきりがないくらいありますけど、私が思いますに、失業者投入をためらわせるのは、本当に「儲からないから」です。


 どんなに賃金が低くてもいいから仕事がしたい?でも、作業内容はこう↓ですよ。

「子供の身長ぐらいあるチェーンソー担いで道のない山に登り、たどり着いたら数人がかりで木を切り倒して、枝をノコギリで払って、その丸太を担いで登ってきたときと同じ道無き道をはいずり下りて、トラックに積み込む」

 小さめの御柱祭をしてる感じです。これだけでたぶん1日終わります。それだけやってやっと丸太一本。切っただけですから付加価値はほとんどありません。一本切り倒して山からおろすのに何人必要だか。その分人件費がかかります。もうけがどれだけ出るやら。丸太一本当たりのの市場価格から考えるに、正直、月給は数万いけばいいほうですよ。当然危険手当なんて出せません。これはちょっと、と誰もが思うでしょう。日本の木材は、切り出しに人手を使えるほど高価な商品ではないのです。


 もっと効率よくすればもうけは出るかもしれません。でも、そうしようと思えば、藪を払って山を削って林道をつけなければなりません。人員を輸送するのに車も必要。車を走らせるなら舗装工事もしなきゃならないし、登山用の装備も人数分。丸太を担いでおろすのが危険ならクレーンも用意。住むところが必要なら寮も建設です。食費だってばかになりませんし、食べる場所も必要。ぱっと考えただけでこれだけ初期投資が必要。最低でも十数億円かかりますね。このお金を誰が用意して、誰が計画して、誰が失業者に募集をかけて、一カ所に集めて研修して、山まで連れてきますか?そもそも、そういう企画立案だってタダじゃないです。実務経験豊富なプロデューサーが何人も必要でしょう。ていうかそこまでやるんなら、素直に人じゃなくて林業用機械を入れた方が百倍儲かります。


 これだけ用意して、失業者を大勢山に入れたとします。なにしろ全員林業は未経験ですから、必ず事故は起こるでしょう。もしも死人でも出た日には・・・「失業者対策事業で死亡事故続出!そもそも計画段階から無理があったと林業関係者は語る!」とか新聞に載ってこの事業はオジャンです。マイナスイメージがついて継続は不可能になるでしょう。これだけのリスク背負って、それでも失業者を救いたい!という経営者はまずいないです。

 

 要するに、ハイリスクの割にローリターンしか期待出来ないのです。今の林業が流行らないのだって、初期投資額に比べて売上高があまりにショボくて、回収に何十年もかかるからだもの。個人レベルでどうにか出来る額と規模ではないし、企業はハイリスクローリターンの商売に手を出したくない。木材なら外国から輸入した方がずっと安いし(世界情勢が急速に変化してきているから、今後はどうかわかんないけど)。


 けれど、国産材は近年、見直されてきています。かつて植林された杉が伐期(もう木材になるぐらい成長した時期)に来ていること、外材の価格高騰、ロシアの関税アップ、中国などでの需要の増加、CO2吸収源として森林が注目されてきていること、などの追い風により、国産材を改めて商品として扱おうとする動きが出てきています。そうなればきっと大きな事業として動き出し、雇用も少なからず発生するでしょう。今すぐというわけにはいきませんが、注目したいところです。



・後継者のない伝統工芸など

 最後に、後継者不足に悩む伝統工芸とかですが、これは明白でしょう。伝統工芸の継承者が欲しているのは「人手」ではなく「後継者」なのですから、仕事探すつもりで来られても困ります。人生かけるつもりで来てもらわないとモノになりません。



どうでしょう?すぐに思いつく限り並べてみましたが、なかなか思うように世の中うまくはいきませんね。そもそも景気が下向きの時には失業者が出る、というのは仕方のないことかもしれません。そもそも資本主義ってそういう欠点が内在してます。だからこそそれを抵抗無く受け入れるために「神の見えざる手」みたいな考え方が出てきたわけで。資本主義を選択した結果生まれる失業者のための受け皿が、国が用意する「社会保障」だと思うんですが・・・どこにあるんでしょうね、この受け皿。私見たこと無いんですよ。


以上、私の勝手な推察でございました。なんの解決にもなってませんが・・・。

私はとりあえず明日も仕事がございます。今年も良い年でありますように。

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